バカラの5枚目のカードが配られる直前、つまりプレイヤーかバンカーの3枚目がまだ確定していないタイミングで賭け金を引き上げた(実質的にそのラウンドを放棄した)ケースを60ラウンド集め、その後の結果と「戻した判断」がどれだけ当たっていたかを追いかけた。結論から書くと、的中率は33/60、55.0%だった。コイン投げと区別がつかない数字で、これを「読みの精度」と呼ぶにはかなり無理がある。ただ、内訳を見ると面白い偏りが出たので、そこを中心に書いていく。
そもそも何を測ったのか
バカラの5枚目、というのは正確には「3枚目」の話であることが多い。プレイヤーとバンカーに2枚ずつ配られ、合計が8か9ならナチュラルで終了、それ以外はルール表に従って3枚目を引くかどうかが決まる。プレイヤー側が3枚目を引く条件は合計0〜5、引かないのは6〜7。バンカー側はプレイヤーの3枚目の値によって条件が変わる、あの面倒な表だ。
ここでいう「5枚目のカード」は、プレイヤー2枚+バンカー2枚=4枚配られた後の、5枚目に相当するカード。要するにプレイヤーの3枚目、あるいはバンカーの3枚目のこと。カジノ用語では「5枚目」で通じることもあるし、通じないこともある。今回はプレイヤー・バンカーの3枚目が引かれる直前、つまり結果がまだ確定していない瞬間にベットを降りた(あるいは降りようとした)状況を対象にした。
なぜこのタイミングか。バカラは基本的に各ラウンドが独立していて、カードの履歴から次のカードを予測するのは理論上できない。シューに残っているカードの構成を考えればカウンティングの余地はゼロではないが、8デッキシューでRTPの変動は0.1%未満の話になる。にもかかわらず「流れを読む」「ここは引かない方がいい」という感覚で賭け金を動かす人がいる。その感覚が実際にどれくらい当たっているのか、数字で見たかった。
被験者は筆者自身と、協力してくれた知人2人(いずれもバカラ歴3年以上、月に数回は遊ぶ層)。オンラインカジノのライブバカラと、国内でアクセスできるRNG版を混ぜて60ラウンドを記録した。時期は2024年11月から2025年1月にかけて。1セッションあたりのラウンド数を絞り、判断が雑にならないようにした。
「戻した」の定義
ここが一番揉めるポイントなので先に書く。正確には、賭け金を完全に取り消せたケースはほとんどない。オンラインカジノのライブバカラでは、カードが配られ始めた時点でベットはロックされる。RNG版でも同様だ。だから実際にやったのは、
- 3枚目が配られる直前に、別の賭け目(タイやペアなど)に追加で張ってヘッジした
- あるいは「次ラウンドは張らない」と決めて、そのラウンドの結果を観察だけした
- ごく稀に、ベット確定前のタイミングで取り消せた
この3つの混合である。純粋な「取り消し」は60件中7件しかなかった。残りはヘッジか見送り。タイトルで「戻した」と書いたのは語感の都合で、実態は「実質的にエクスポージャーを縮めた」に近い。この時点で実験設計としては甘い。ただ、知りたかったのは「引く直前の判断が当たるか」であって、厳密な取り消しの可否ではないので、そこは目をつぶってほしい。
60ラウンドの結果
集計はシンプルにした。各ラウンドで「このまま引かせると負ける(あるいは損をする)」と判断してエクスポージャーを縮めた。その後、実際に3枚目が引かれ、結果がどうなったか。判断が正しかった=縮めなければ負けていた、と定義する。
結果は以下の通り。
| 判断 | 件数 | 割合 |
|---|---|---|
| 正しかった(縮めなければ負け) | 33 | 55.0% |
| 間違っていた(縮めなければ勝ち) | 24 | 40.0% |
| 判定不能(タイ・ペア絡みで損得が曖昧) | 3 | 5.0% |
55.0%。60件というサンプルサイズを考えると、標準誤差はおよそ6.4ポイント。95%信頼区間でざっくり43%〜67%に収まる。つまり「50%より上」と断言できるだけの材料はない。コイン投げと区別がつかない、という最初の感想はこの数字から来ている。
ただ、内訳を分けると少し違う景色が見える。
プレイヤー側とバンカー側で差が出た
判断対象をプレイヤーの3枚目に絞ったケースと、バンカーの3枚目に絞ったケースで分けた。
- プレイヤー側の3枚目に関する判断:34件中21件的中(61.8%)
- バンカー側の3枚目に関する判断:26件中12件的中(46.2%)
プレイヤー側の方が当たっているように見える。が、これもサンプルが小さい。34件で61.8%なら、信頼区間は44%〜77%程度。バンカー側の46.2%も33%〜60%程度。重なりは大きい。統計的に意味がある差とは言えない。
それでも被験者3人の感想は一致していた。「バンカーの3枚目は読めない」。理由ははっきりしていて、バンカーの3枚目を引くかどうかはプレイヤーの3枚目の値に依存する。つまりプレイヤーの3枚目が確定するまで、バンカーが引くかどうかすら決まらない。判断の材料が一段階遅れて出てくる構造になっている。プレイヤー側は「合計0〜5なら引く」という単純な条件なので、まだ読む余地があるように感じられる。感じられるだけで、実際はシューの残りカード次第だが。
ヘッジした場合の損得
60件のうち、実際にヘッジ(タイやペアへの追加ベット)で対応したのは29件。この29件の損益を計算すると、ヘッジ自体が的中したのは4件だけ。残り25件はヘッジ分がそのまま消えた。ヘッジのコストは1件あたり平均で元のベット額の0.4倍程度。29件×0.4=約11.6単位分をヘッジに費やして、回収できたのは4件分の配当(タイなら8倍、ペアなら11倍だが、張った額は小さめに抑えたので実収は限定的)。トータルではヘッジは明確にマイナスだった。
当たり前の話で、タイもペアもハウスエッジがバカラのメイン賭け目より大きい。タイのハウスエッジは8デッキで約14.4%、ペアは約10.4%(バンカーペア)。メインのバンカー(コミッション込みで約1.06%)やプレイヤー(約1.24%)と比べると桁が違う。不安を消すためにエッジの高い賭け目に金を移すのは、長期的には確実に負けを加速させる。60ラウンドの損益でもそれがそのまま出た形だ。
「読めた」と感じた瞬間の正体
60ラウンドを終えて、被験者3人に「どの判断が一番自信あった?」と聞くと、全員が「外した」ケースを挙げた。これはよくある認知バイアスで、自信があったのに外れた経験の方が記憶に残る。逆に「適当に縮めたら当たった」ケースは印象が薄い。
記録を見返すと、判断の根拠として多かったのは以下のようなものだった。
- 「さっきからプレイヤーが3連勝している」(前ラウンドの結果)
- 「シューの後半で大きいカードが続いている」(主観的なカードの偏り)
- 「バンカーの合計が6で、プレイヤーが3枚目を引くパターンが多い気がする」(経験則)
1は完全に独立試行の誤解。2は8デッキシューでは残りカードの偏りが結果に与える影響は無視できるレベル。3は経験則としては方向性が合っているが、それは「バンカー6でプレイヤーが引けばバンカーは引かない」というルール上の話であって、勝敗の予測にはならない。
つまり、判断の根拠はほとんどが「錯覚」か「ルールの再確認」で、実際のカード構成を読んでいるわけではなかった。それでも55%当たったのは、単にバカラのプレイヤー・バンカーの勝率がほぼ五分五分(バンカー50.7%、プレイヤー49.3%程度、タイを除く)だから、適当に縮めても半分くらいは「縮めなければ負け」になる。55%という数字は、判断の精度ではなく、ベースレートの反映と見るのが自然だ。
除外したラウンドの話
60ラウンドを集めるにあたって、除外したラウンドがある。ナチュラル(最初の2枚で8か9)が出たラウンドは、3枚目が配られないので対象外にした。また、プレイヤーもバンカーも3枚目を引かないラウンド(両者6か7)も除外。結果として、3枚目が実際に配られたラウンドだけをカウントしている。この条件だと、1シューあたりの該当ラウンドはおよそ6割程度。8デッキ416枚のシューで、平均して1シュー70〜80ラウンド消化するとして、その6割が対象という計算になる。
もう一つ、記録の精度の問題がある。ライブバカラは1ラウンドあたりの時間が短く、判断から結果確定まで数秒しかない。記録は後から動画を見返す形にしたが、どうしても主観が入る。「この時点で縮めようと思った」というタイミングは、実際の操作ログではなく記憶に頼っている部分がある。この辺は実験というより観察日記に近い。
数字が示していること、示していないこと
60ラウンド、的中率55.0%。この数字だけを見て「やっぱり流れは読める」と思うか「誤差の範囲」と思うかは人による。ただ、少なくとも言えるのは、
- サンプル60では、50%との差を統計的に主張できない
- プレイヤー側とバンカー側で的中率に差が出たが、これもサンプル不足
- ヘッジは29件中25件が空振りし、コストだけが残った
- 判断の根拠はほぼすべてが独立試行の誤解かルールの再確認だった
ということ。そして、これはバカラに限らず、ライブカジノ全般に言える。ルーレットの「赤が5回続いたから次は黒」と同じ構造で、人間はランダムな系列にパターンを見つけたがる。バカラはルールが複雑な分だけ、そのパターン探しに知的な手触りが加わる。だから余計に「読めた」気になりやすい。
ここで一つ、実用的な話をしておくと、バカラで長期的に損を減らす方法はほぼ一つしかない。ハウスエッジが最も低い賭け目(バンカー、コミッション込みで約1.06%)を、感情で動かさずに淡々と張り続けること。3枚目のタイミングで賭け金を動かすのは、期待値的には何も改善しない。改善しないどころか、ヘッジに回す分だけエッジの高い賭け目に資金が流れる。60ラウンドの記録は、その当たり前の結論を追認しただけとも言える。
ただ、この実験で面白かったのは、被験者3人が「次はもっと読めるようになる」と口を揃えて言ったことだ。55%という数字を見せても、その反応は変わらなかった。「今回はサンプルが少なかった」「バンカー側のルールをちゃんと覚えれば」と。判断が当たった33件の記憶の方が、外れた24件より鮮明なのだろう。
で、5枚目は読めるのか
読めない、が現時点の答えだ。少なくとも60ラウンドの範囲では、判断の的中率はコイン投げと区別がつかず、判断の根拠は統計的に意味のあるものではなかった。ヘッジはコストを増やしただけ。この結論は、バカラのルールとシューの構造から考えても妥当だ。
ただ、60ラウンドというのはあまりに小さい。もし600ラウンド、6000ラウンドと集めたら数字はどう動くのか。おそらく50%に収束していくはずだが、プレイヤー側だけを見ると60%前後を維持する可能性もゼロではない。シューの後半で特定のカード構成に偏ったときだけ的中率が上がる、という仮説は完全には否定できない。8デッキでも、シューの最後の10〜20枚は残りカードの偏りが相対的に大きくなる。そこだけを狙うなら、何か見えるかもしれない。見えないかもしれない。
次にやるなら、シューの残り枚数を記録して、後半戦だけを抽出して比較する形にしたい。あとは、判断の根拠をその場で音声メモに残して、後から「それは独立試行の誤解か、ルール由来か」を分類する。今回みたいに記憶に頼ると、どうしても「当たった気がする」が混ざる。
最後に一つ。この種の検証をしていると、ギャンブルに対する姿勢が少しずつ変わる。当たらない判断に賭け金を連動させるより、決めた額を決めた賭け目に淡々と置く方が、精神的にも財布的にも楽だという当たり前の結論に、毎回戻ってくる。遊ぶなら、失ってもいい範囲で。60ラウンドの記録が教えてくれたのは、的中率の話よりもそっちだった。